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<インタビュー> 山梨大学 兼平雅彦先生

努力を続けて諦めさえしなければ、何とかなる。
もしくは誰かが助けてくれる。

— ライフサイエンス研究を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。
 お恥ずかしい話、大学時代の成績はお世辞にも優秀とはいえませんでした。微生物学の教授に追試験の結果を聞きに行った際、「君、研究室に来てみないか?」とお誘いを受け、翌日から研究室へお邪魔し、右も左もわからないまま研究の真似事を始めました。「前日に仮説を立て、当日に実験し、翌日に検証する」の繰り返しの日々が意外にも楽しかったのを覚えています。その当時は、「好きな研究がそのまま仕事になればいいな。」くらいに漠然と考えていました。
 折しも、腸管出血性大腸菌O157が社会問題となっており、そのときの教授が厚生省(現 厚生労働省)の対策班班長に抜擢され、当時はまだ珍しかった産学官連携で疫学調査や対策を行いました。私もその一員に加えていただき、私が出したデータもエビデンスの1つとして採用されました。「キャリアの差こそあれ、研究というフィールドでは私と君は常に対等の立場なんだ。」という教授の言葉は今も心に残っています。「自分もこんな世界で活躍してみたいな。」と思い、研究者の道を志しました。 

― これまでの経歴を教えてください。また、特に苦労したことやアピールできることなどありましたか。
 私は獣医学科卒の獣医師です。ただ、臨床の経験はほとんどなく、いわゆる「ペーパー獣医師」です。学部学生の頃は細菌学や感染症に興味がありましたが、「感染症を理解するには免疫学を理解する必要がある。」と一念発起し、免疫の研究を行っている研究室を博士課程の進学先として選択しました。その後はポスドクや海外留学、県の家畜保健所の職員(公務員)などを経験しました。
 苦労したことは多々ありますが、やはり常勤の研究者としてのポジション獲得ですね。38歳でやっと助教になれました。それまでは妻の方が収入が多く、家では主に私が家事・育児を行っていました。妻には今も頭が上がりません(笑)。アピールしたいのは、「努力を続けて諦めさえしなければ、何とかなる。もしくは誰かが助けてくれる。」ということでしょうか。

骨髄由来間葉系幹細胞(BMMSCs)への理解を深める

— 研究内容について教えてください。
 学位取得後、最初のポスドク先である医学部の呼吸器内科にて肺がんに関する研究を行いました。その当時のボスは、ウイルスベクターを用いた肺がんの遺伝子治療のパイオニアです。その時、肺がんへ抗がん遺伝子を運ぶツールとして骨髄由来間葉系幹細胞(BMMSCs)を用いていましたが、そのBMMSCsに関する研究を現在も続けています(留学先もBMMSCsの世界的権威の先生が主宰する研究室でした)。BMMSCsは培養を続けるうちに、増殖速度も幹細胞としての性質も失っていきます(細胞老化)。その細胞老化の調節メカニズムの解明や疾患との関わりを調べています。
 現在の研究例の一つとして、某大学病院の呼吸器外科とヒトの肺移植でドナー肺を保存する際に用いる保存液に関する共同研究があります。私が専門のBMMSCsは、過剰な免疫応答を抑制する働きを持っているのですが、その働きを移植片拒絶の抑制に応用できないか探っているところです。

失敗を恐れていてはもったいない。もっと図々しく。

― 学生と接する中で思うことなどがあれば教えてください。
 今の大学院生を見ていますと、何事もとりあえずインターネットに答えを求める傾向が強いと思います(自分で調べようとする姿勢は大切ですが)。私が大学院生だった頃は、わからないことはその分野に詳しい方に直接聞きに行くのが当たり前でした。聞かれた方も(悪い気はしないのか)、プラスアルファの情報をくれた気がします。そうやって研究の輪を少しずつ広げていきました。「隣のラボは何の研究をしてるのかな?」とか、もっと自分のテーマ以外にも興味を持ってもいいのではないでしょうか。他の人が自分のテーマに興味を持ってくれるのは嬉しいものですし。便利なツールというのは、時に人間に必要なコミュニケーションスキルを削いでしまう危険性があると常に考えています。
 また、最近の大学院生は、ボスの顔色を伺いながら、「こんな実験を考えたのですがどうでしょうか?」と相談に来る控えめな人が多い気がします。私が大学院生の頃は、「こんな実験をしました!こんな結果が出ました!」とボスにデータを持っていくような図々しさがあった気がします(失敗した実験は闇に葬りましたが・・・)。あと、「そんな実験無駄だよ。」「絶対失敗するよ。」と言われた時には、「やってみないと分からない!」と反発していました(ひねくれ者の私だけ?)。ほかの人に「無理だ」といわれて完結するのと、自分で納得いくまで検証して「無理だ」と結論付けるのは、同じ「無理」でも天と地ほどの差があると思います。せっかくボスの研究費で研究ができて、体力も時間も有り余っている時期なんですから、失敗を恐れていてはもったいないですね。

時々は芸術に親しんでいます

― オフの時など、研究以外での過ごし方を教えてください。 
 休日は午前中に部屋の掃除や洗濯を行って、午後は読書や料理を行います。最近は体力の低下を感じてきましたので、散歩やエアロバイクなどで意識的に体を動かすようにしています。幼少期からピアノを習っていたので、今でも時々弾いています。あとは、美術館にも定期的に足を運びます。自分の足音が聞こえるくらい静かな館内で絵画を見ていると、不思議と気分が安らぎますね。

 

― 完 ―

<兼平先生のプロフィール>
現所属 : 山梨大学総合分析実験センター 准教授
略歴 :
2004年 東北大学大学院医学系研究科 博士課程修了
2008年 Tulane University 博士研究員
2008年 Texas A&M Health Science Center 博士研究員
2013年 東北大学病院 血液・免疫科 助教

<記事作成者>
インタビュアー /  S. I.
編集者 /  R. N.